おフランスは狂気の国?! 書評『嘘だらけの日仏近現代史』

書評『嘘だらけの日仏近現代史

(Scorpionsさんの書評)【本が好き!】http://bit.ly/2lta0FM 

おフランスは狂気の国?!

累計35万部を誇る倉山満先生の代表作「嘘だらけ」シリーズ第6弾。シリーズ6冊目ながら、今までと違う視点を得ることができ、シリーズ愛読者も、初心者も興味深く読むことができるのではないでしょうか。
今回取り上げる国はおフランスです。
フランスと言えば、オシャレ・貴族・フランスパン・イヤミ(お〇松くん)といったところでしょうか。(「ベルばら」はよく知らないので)

そんな「気品」に溢れ、「お上品」で、「教養」があるように思えるフランスは、「人権宣言」とも相まって「自由、平等、博愛」の国のようにも思えます。

ですが、本書を読めば世の中そんなに甘くないのだということを思い知らされます。

■絶対に真似したくない、「フランス革命

あらかじめ申し上げておくと、本書はフランスの悪口を言っているだけの本でありません。
最初に主権国家を成立させたとしてリシュリューやその後継者マザランのことやナポレオン戦争後の名外交官タレイランのことは非常に好意的に評価していますし、第二次世界大戦後に至っては、ド・ゴールのもと敗戦国から再び大国へのし上がったその根性を見習うべきだとすら述べています。

ですが、フランスの歴史の中に学ぶべきことは多くあれど、絶対に真似したくない出来事といえばフランス革命をおいてほかにはないのではないでしょうか。

■人権宣言に塗り込まれた「理性」という名の猛毒

フランス革命のもと発せられた「人権宣言」には第一条から「人権」「圧政への抵抗権」「国民主権」と続き、「法の適正手続き」「罪刑法定主義」「推定無罪の原則」「信教の自由」「表現の自由」「財産権」などが記されています。
「ここに書かれていることが全部問題なのではない、どさくさに紛れて怖いことを書くからマズイのだ」と倉山先生は指摘します。

怖いこととは一体何なのか。
それは「理性」なのだそうです。

これら17の権利を前文で「最高存在の前に宣言する」としているからマズいのだと。
ここでいう「最高存在」こそが、当時のルソーが提唱していた理論に連なる「理性」なのだというのです。

当時の革命家たちは伝統的に信仰してきたキリスト教に基づく道徳性を無視し、「理性」のみに従うとすることで、これまでのフランスを全否定し、まったく新しい歴史を作ろうとしていたのだと。

■理性しかない人間は人間的であると言えるのか

「最高存在を理性としたのが問題だったのだ」と言われてもピンとこないかもしれません。
なんせ世間一般には”感情的な人間”であるよりも”理性的な人間”と言われる方が、誉め言葉のように聞こえるのですから。

ですが、万が一、「理性しかない」人間がいたとしたら、どうでしょうか。
その人物は完璧な人間なのでしょうか?
そもそも「人間的である」とすら言えるのでしょうか-。


『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学』(ジョナサン・ハイト著)によると、サイコパスは”理性的に思考するが感じない”のだそうです。
サイコパスは何の情動も持たないと言うわけではなく、自己欲求には情動を示すそうです。
ですが、他人を気づかっていることを示す情動は見せません。

「まるで彼らには物体しか存在せず、そられのいくつかがたまたま二本足で歩き回っている世界で生きているかのようにしか認識できない」


サイコパスの情動あるいは直観は、もっとも邪悪な不正義に対してすら、まったく動こうとしないのに対し、思考(理由を考えること)はまったく正常で、戦略的な思考に著しく長けているのだ」

のだそうです。

本書『嘘だらけの日仏近現代史』においてもチェスタトン

狂人とは理性をなくした人間のことではない、理性しかない人間のことだ

と看破したと言います。
フランス革命を主導し、その後独裁政治を敷いたロべスピエールがその「狂人」の最たるものと言えますが、フランスという国全体が「理性」という名の毒に侵されていたと言わねばならないのではないでしょうか。

■理性だけでもダメだが、感情的だけというのも・・・

フランスは「理性」という名の猛毒に侵され、道を誤りました。
では、日本はどうなのでしょうか。
本書を含む「嘘だらけ」シリーズで明らかになっているのは、諸外国云々以前に、日露戦争を勝利した後の日本は”平和ボケ”してしまい、理性的に思考することを忘れ、感情に支配され、場当たり的な対応に終始し、道を誤ったということです。

前述のジョナサン・ハイトの書では、「情緒はあれど思考しないのは”乳児”である」と指摘されています。
口にするのもはばかれますが、「当時の日本(少なくとも首脳部)は乳児のように稚拙だった」と言われて反論できる人はいるのでしょうか。
また、地政学国際法の通義を忘れてしまった戦後の日本もまた経済規模の大きくなった「図体が大きくなっただけではないか」と言われて反論できる人はどれほどいるのでしょうか。

「図体が大きいだけの乳児」から「自立した大人」になるためにこそ、フランスという「狂人」から「真人間」に戻った国の歴史、文化、伝統を学ぶ必要があるのかもしれません。

決して某Z省のように「消費税は懐に手を突っ込まれるのが嫌いなフランス人から税を取るための、よくできた税制だ」などという理由から学ぶためではないことだけは言えます。

フランスという「理性という名の狂気を経験した国」をメインに据えることで、逆に日本がいかに「感情に支配されていたのか」が際立ったという意味において、シリーズ6冊目ながら、また今までと違う視点を得ることができ、シリーズ愛読者も初心者も興味深く読むことができる一冊となりました。

おススメです!

 

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