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書評『環境問題としてのエネルギー』 ~「シン・ゴジラの形態変化」と「エネルギーおよび環境問題の人類史」に関する一考察~

書評『環境問題としてのエネルギー―危機管理の経済史』(海上知明著)

#エネルギー問題 #環境問題 #シンゴジラ #怪獣 #環境汚染 #人類史

書評サイト本が好き!⇒ http://bit.ly/2phkTY0

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シン・ゴジラの形態変化」と「エネルギーおよび環境問題の人類史」に関する一考察

 

古今東西、怪獣のモチーフとして最も多く用いられているテーマに「環境問題」「エネルギー問題」「戦争」が挙げられることは言を待ちません。
 
その最も代表的な例と言えば原爆の恐怖、戦争の恐怖を表現したと言われる「初代ゴジラでしょう。 
それは2016年に公開され大ヒットを記録したシン・ゴジラにも受け継がれており、初代ゴジラに対するオマージュが随所に散りばめられています。
その一方で、「シン・ゴジラ」では、従来と大きく異なる設定が観客の度肝を抜いたことは記憶に新しいところです。
 
その代表的なところをいうと
・形態が4段階に変化すること。
・熱核エネルギー変換生体器官を内蔵していること。このため”食べる”という行為が不要。
・戦闘機などが近づくと自動的に背中から光線を放出し破壊。
等々、生物というよりは、ある種の”システム”ともいうべき側面が強調されているように思えます。
 
ここから、完成形態(第4形態)が”核”を象徴しているならば、「シン・ゴジラ」で描かれている、第四形態に至るまでの形態変化は「エネルギー利用の人類史」ひいては「環境問題の人類史」を象徴していると捉えることが出来るのではないか-。
 
本書『環境問題としてのエネルギー―危機管理の経済史』を読みながら、こんなことを考えてみました。

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■第一形態:焚火の時代
シン・ゴジラにおける第一形態)
オタマジャクシのような形態で、映画ではその全体は描かれておらず、冒頭アクアライン崩落事故現場の海域でその尻尾を見せたのみ。
   
エネルギー利用の人類史で言えば、これは火の始まり、「焚火の時代」に相当すると言えます。
本書『環境問題のエネルギー』によると、ケニアのチェソワンジャ遺跡、南アフリカのスワルシクランス洞窟の焚火跡などから、およそ150万年前には「火の利用」が行われていたことが明らかになっているそうです。
 
「火の利用」を手に入れたことによって、人類は危険な猛獣から身を護ることが可能になりました。同時に、火を”意図的に”利用して“狩りを行う”ということも始まり、捕食動物を追い立てるために、また焼け跡から昆虫や蛇の死骸という食料を得るために、そして下生えを取り払って木の実を拾うために「火入れ」という放火が行われるようになります。
これが「環境問題のはじまりである」と本書では指摘されています。
 
”古代人による狩猟”というと槍などを携えて、ただただ猛獣を追いかけまわしているだけのイメージだったので、太古の昔から狩りの際にも火を利用していた、それも環境破壊を伴う形で行われていたというのは少々意外でした。
 
現在の人口でこんなことをやっていたら、森林・草原は全て焼け野原になっているのでしょうが、農業以前の世界人口は400万~500万人に過ぎなかったために、その影響も軽微だったのでしょう。
 
シン・ゴジラにおいても第一形態での被害というのは大量の水蒸気噴出とアクアラインが一部浸水した発生程度のものとなっており、後の第4形態での被害の甚大さからみれば、軽微なものと言えます。
 
■第二形態;農業革命期
シン・ゴジラのおける第二形態)
蒲田に上陸した第2形態。エラのような部位から赤い液体を排泄しながらウネウネと蛇行して侵攻。
鰓からは定期的に放射性物質を含む赤い体液が垂れ流されており、凄まじい悪臭を発している。 下半身には一応後脚が出てきているが、前脚(腕)はまだ未発達で、体全体を使ってヘビか陸に上がったウナギの如く這いずりながら移動。

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これは「農業革命期」に相当すると言えます。
狩猟において火を利用していた人類は、次第に焼き払われた後に青草が生えるという事、さらには食用とする動物のかなりの部分がこの青草を食むタイプの動物であることに気付いたのだと言われています。このことから英国の考古学者ポール・メラーズは、「狩猟から牧畜が始まった」と論じたそうです。
 
さらには、穀物を実らせる植物は青草でしたが、この種の植物は、他の植物に覆われていない時のみ発芽します。つまり、焼き払われた草原に生えるのが”穀物”だったのです。
そこから次第に意図的に森林を焼き払い、肥沃な灰を大量に含んだ耕地を生じさせ、そこに穀物を植えたのが「農業の始まり」なのだとか。
また、火の利用は食物の加工という面においても大きな役割を果たし、

高い栄養価と長期保存が可能な穀物は、世界各地で主食となったが、それには火による加工が前提になっていた。

と本書は指摘します。
  
■第三形態:文明勃興期(森林エネルギー消費時代)
シン・ゴジラにおける第三形態)
品川周辺で立ち上がった第3形態。まだ足取りはおぼつかなく、不気味な瞳はそのまま。エラ呼吸から肺呼吸へと急激な進化を遂げた胸部の抉れたような形状が特徴。


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第三形態はエネルギーの発展史における文明勃興期(あるいは森林エネルギー消費時代)と位置付けることができます。 
農業革命によって人類は「草原の経済学」の限界を突破し人口増加を遂げ、文明が誕生しました。
 
そもそも文明とは本質的に経済システムであり、周辺より優勢であれば、もともとの発生地を超えて広範に拡大するものです
その優勢さの一つに「エネルギー」があり、エネルギー消費が文化の優劣をつけるものとみなすという考え方もあるそうです。(そういう意味においては、現代社会は西欧文明が全世界を覆っていると言えます。)
  
文明の発達は森林破壊をもたらします。
金属の精錬だけでなく、陶器の製作においても高温を使うため、エネルギーは必要であり、建築にも造船にも素材としても燃料としても木材は使われ、農作物を増産させようとすれば農地の拡大のために森林は開拓され、「人口増加と消費の拡大とは、否応なく森林に打撃を与えた」と本書は指摘します。
 
実際、現代文明に限らず、人類最古の文明と言われるメソポタミア文明においてもエネルギー問題が発生しており、他にもインダス文明クレタ文明、ミュケーネ文明、古代ギリシアアテネ、スパルタ等々、いくつもの文明、古代都市がエネルギー問題と環境問題に直面し、衰退していったのだそうです。
また、時間が現代に近づくにつれ、徐々にエネルギー問題の解決方法としての「侵略行為」が頭をもたげ始めます。
 
ローマ帝国においては住居地や農地の拡大からくる森林開発が進み、樹木が不足することで燃料費の高騰を招き、その打開策としての侵略戦争が積極的に行われるようになったと本書は指摘します。
労働力である奴隷の獲得、周辺地域を侵略し、資源としての森林を領土に取り込む。生産活動に伴う森林の消費により、さらなる征服に駆り立てられる・・・。
 
特にアジアなど他の地域に比べて、”窮髪不毛の地”であった西欧文明は、このようなサイクルでしか文明を維持し続けることが出来ませんでした。
また、さらに時代が進むと宗教的な意味合いとしての「森林憎悪」から森林伐採が進んでいきます。
(注:窮髪不毛・・・きわめて遠くへんぴで草木の生えない土地。不毛の地の意味)
 
劇中においても第二形態でや第三形態でのゴジラは、車や建物をかき分け突き崩ながら東京を進行するなど周辺に多大な被害を出していきました。
それでも被害にあったのはゴジラの進行ルート上にあった建物・施設にとどまっており、後の東京が火の海になる様から比べれば、被害は限定的であったという見方もできます。
 
森林エネルギー消費時代も同様で、いくらエネルギーを消費すると言ってもその資源が森林である以上、一度消費してしまえば、森林が育つまで(或いは周辺地域の侵略が成し遂げられるまで)、待たなければならないという制約が存在しました。
環境破壊もそれぞれの時代において文明の衰退をもたらしてはいましたが、地球規模での汚染拡大にまでは至っておらず、その被害は限定的であったと言えます。
 
■第四形態:産業革命、蒸気機関による地下資源エネルギー時代
シン・ゴジラにおける第四形態)
劇中での最終形態。見慣れたゴジラの姿。
火炎放射で広範囲の街を火の海に変えた後、更に火炎をレーザー光線に変化させ、爆撃機を一機破壊。直後に背部からも複数の光線を放射し始め、爆撃機をすべて撃墜し、途中から光線を再び火炎放射に戻しつつ、吐き出し続け、蹂躙しながら港・千代田・中央3区の市街地を破壊し、火の海に変える。

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この第4形態をエネルギーの発展史になぞらえるなら、産業革命以降の地下資源エネルギー時代」が最もふさわしいと言えます。
本書によれば、ウランプルトニウムによる核エネルギーも、この産業革命以降のエネルギー時代の延長線上にあるとされています。
  
では、教科書でも習う産業革命」とは何か。
端的に言えば、「森林に代わる新しいエネルギー源の利用と、エネルギー利用方法の大幅な変化こそが、その本質である」と言えます。
 
それまでは森林が中心だったエネルギー源が石炭に代表される地下資源に代わり、石炭の効率的なエネルギー変換装置として蒸気機関が活用されるようになります。
これによって、西欧諸国は爆発的なエネルギー資源を獲得することで近代化が進み、国力は桁違いに増強されます。
 
産業革命がもたらした国力の増強とはどれほどのものだったのか。
本書によると、

たとえば蒸気1馬力を人力21人分だとすると、1840年のフランスの産業・商業は100万人の労働者を得ていたことに匹敵し、1885年~87年頃には9800万人相当となる。
言ってみればフランス人1人につき2.5人の奴隷を持っていたということになるという。
この数字は、英国ではもっと大きい。1890年の英国の蒸気機関は1370万馬力、馬1頭人21人分だとすれば、1人あたり9人の奴隷を持っていたことになる。


というほどの途方もないものだったそうです。
 
産業革命、地下資源の活用により得たエネルギーは巨大なものでしたが、得たエネルギーが巨大な分だけ、その反動としての環境被害やイデオロギー、軍事における「負の側面」も甚大でした。
 
既に17世紀初頭から煙害や酸性雨、大気汚染が発生し、当時の人々の健康にも多大な被害をもたらしていたそうです。
 
”霧のロンドン”と言えば、”灰色”のイメージですが、それも産業革命による大気汚染が影響しており、実際には煤煙と霧が結合してできた”スモッグ”がもたらしたものであり、産業革命以前のロンドンの霧は、”さわやか”なものだったそうです。
そのさわやかだったロンドンの霧も、スモッグによって”死を招く黒い霧”に変わり果て、1952年には「グレート・スモッグ」が発生、数か月間にわたり4000人もの死者を出したのだそうです。(現在はかなり改善されているそうですが)
 
また、産業革命による国力増加は西欧諸国の行動範囲を大幅に拡大させます。
拡大した行動範囲で「何」をするのか。
地下資源エネルギーの確保のための領土獲得、すなわち「侵略」および「植民地支配」です。
工業化の推進・維持が目的のための領土獲得ですから、現地の自然や先住民への配慮など皆無です。そのため侵略行為が時に露骨に、時に狡猾に野蛮化し、凶悪化していく様が本書ではいくつもの事例を取り上げながら紹介されています。
 
また、当然ながら獲得・生産されたエネルギーは軍事への転用もなされていきます。
膨大なエネルギーが投入されることによって生産力は飛躍的に拡大し、大量の火力を生み出せるようになります。これによって戦場に大規模に集中的に火力を使用することが可能となりました。
このことがガトリング銃などの生産・開発にはじまり、ミサイル、そして現時点における終着点としての「核爆弾」に至っていると言えます。
 
第一次世界大戦以前においては”限定的な行為”であった戦争が「総力戦」へと変貌するキッカケ、それに伴い戦争被害が桁違いの大きさとなるその要因の一つとして、地下資源による消費エネルギーの爆発的増加、それらの軍事転用による大規模火力の出現があったという指摘は、エネルギー問題が環境問題だけではなく、戦争とも密接に関連しているのだということに改めて気づかされる思いです。
  
■最も偉大な発明家は誰か。それは「偶然」である。-マーク・トウェイン
シン・ゴジラの形態変化とエネルギーの発展史、環境問題の歴史を重ねて見てきましたが、庵野監督へのインタビュー記事によると、実際のところは、劇中で形態変化を取り入れたのは「単なる思いつき」なのだそうです(苦笑)
 
何とも身も蓋もない答えですが、冒頭で触れたように、こと怪獣に限っていたとしても、「環境問題」「エネルギー問題」「戦争」がモチーフとなっているものが数多く存在するというのも事実です。
そんな中、「エネルギーおよび環境問題の人類史」を体現できる怪獣がいるとするならば、「ゴジラ」をおいて他にないのではないでしょうか。
  
その際、エネルギーの発展史やそれに伴う文明の発達、環境問題の変遷を調べるにあたっては本書ほど雄弁かつ、壮大に語りかけてくる文献は、そうそう見かけるものではないように思います。
(しいて言えば、本書の著書である海上知明先生の別著『新・環境思想論―二十一世紀型エコロジーのすすめ』ぐらいでは)
 
そういう意味において、本書は、現実社会におけるエネルギー問題、環境問題についても相当程度の知見を与えてくれると同時に、特撮映画を見るときにも使える非常に貴重な一冊であると言えます。
(上述の『新・環境思想論』、同じく海上知明先生の著書『環境問題の戦略的解決』も併せて読んで頂けると、より知見が深まると思います。)
 
おススメです!