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「戦争にチャンスを与えよ」に惑わされるな!~ちょいワルオヤジの「戦争論」、戦う戦略家の「悪の論理」~

「戦争にチャンスを与えよ」に惑わされるな!

ちょいワルオヤジの「戦争論」、戦う戦略家の「悪の論理」~

  

書評『戦争にチャンスを与えよ/エドワードルトワック/文藝春秋』 

書評サイト本が好き!⇒http://bit.ly/2ph8Q1Q

  

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ちょいワルオヤジの「戦争論」、戦う戦略家の「悪の論理」
世界三大戦略家の一人に数えられ、また軍事戦略家随一のモテ男と言われる、ちょいワルオヤジエドワード・ルトワック氏の新著。
 
ルトワック氏のちょいワルっぷりは、本書の帯を見てもらえば一目瞭然、鋭い眼光に、齢75歳にして丸太のような腕。
ジローラモも真っ青です。
 
そんなルトワック氏の新著である本書『戦争にチャンスを与えよ』もルトワック氏の風貌に負けず劣らずのちょいワルっぷりを炸裂させ、時にシリアスに、時にブラックジョークとも取れるユーモア溢れる言葉で”大人の戦略論”を語っています。
 
では、本書でルトワック氏が語っている戦略とは一体どういうものなのでしょうか。
個人的には本書から2つの側面を感じることができました。
 
クラウゼヴィッツ信奉者としてのルトワック
最も有名な軍事戦略本の一つにクラウゼヴィッツが著した『戦争論』があります。
こと日本においては「古典」として紹介され、”死んだ書物”のように言われたりしますが、西欧においては”現役の戦略書”であり、いまだに多くの戦略家に多大なインスピレーションを与え続けているのだそうです。(『クラウゼヴィッツの「正しい読み方」』より)
 
現代のクラウゼヴィッツ信奉者といえば、コリン・グレイ氏がその代表格と言えますが、ルトワック氏も相当、クラウゼヴィッツに影響されているということが本書や『クラウゼヴィッツの「正しい読み方」』を読めばよくわかります。
 
特にルトワック氏の代表的な理論である「パラドキシカル・ロジック」もそのインスピレーションの源泉はクラウゼヴィッツにあると言っても過言ではありませんし、本書で語られている「戦争」に対するルトワック氏の考え方にもクラウゼヴィッツの影響が強く出ているように感じます。
(実際、コリン・グレイ氏も『戦略の格言』の中で「戦争は効く」という言葉を用いて戦争を語っていますし。)
 
「『戦争論』は西欧では未だ現役の戦略書である」という言葉に嘘偽りなく、いまだ”クラウゼヴィッツ”は隠然たる影響力を有しているということが非常によくわかります。
 
■戦う戦略家による実地に基づく地政学
『悪の論理―地政学とは何か』(倉前盛通著 1980年)によれば、地政学とは、
「母国を主要要素とする国際経営の理論」であり、
「国家の望むものを獲得するための行動原理」であり、
「世界的勢力を確保するための活動の科学」なのだそうです。
  
本書ではアメリカ、中国、ロシア、北朝鮮、EU、イギリス、中東、ASEAN諸国、アフリカ諸国、
等々、果ては国連、NGOにまで、様々な国家や組織の「行動様式」に言及しています。
 
特に特徴的なのが各国の行動様式に対するルトワック氏の見解も、いわゆる公式見解、政府見解を寄せ集めたものではなく、ルトワック氏が世界中を飛び回る中で実際に見聞きしたものも含めて総合的に捉えたうえで、その「行動様式」に言及しているという点ではないでしょうか。
 
ルトワック氏はその名もズバリ『クーデター入門』という本を書いており、その内容は実際にクーデターに携わった者でしか描けないような内容だそうです。(現在絶版につき、非常に入手困難な超レアな本なので私も未読ですが、近日中に改訂版が出版されるそう。)
 
クーデターを起こすには、その国の実情を知らなければ成功などおぼつきません。
その最たる例が本書でも興味深いエピソードとして語られている「ギリシャでの給油」でしょう。
「名目だけではなく、実質で考えなくてはならない」のは同盟、あるいは友好関係のみならず、国際政治、国内政治全般について言えることなのではないでしょうか。
 
■「戦争にチャンスを与えよ」に惑わされるな
本書のタイトルにもなっているルトワックが書いた論文は確かに戦争にも相応の意味があるのだということ論じている論文であることは疑いようのない事実です。
また、本書の至る所で戦争、あるいは闘いを肯定するかのような表現が見受けられるのも事実でしょう。
 
ですが、最終的にルトワックが戦略としての最上位に「同盟」を置いていること、「戦争は可能な限り避けよ」と説いていることを忘れてはならないように思います。
だからこそ、ビザンティン帝国徳川幕府を最も成功した「戦略」の実践者と位置付けているのではないでしょうか。
 
クラウゼヴィッツの「正しい読み方」』でも描かれていますが、クラウゼヴィッツを斜め読みし、一節だけ切り取って引用、誤用した者ほど、

「戦争は生存や、国家の独立と名誉を守るための、最後の、そして完全に正当化できる手段である。」(byモルトケ

 

「戦争は人類の宿命であり、国家にとっての不可避なものだ」(byフォン・デア・ゴルツ)


などと称し、「国民の戦争」としての戦争(=いわゆる総力戦)を望むようになり、モルトケにいたっては「絶滅のための戦争」を許容する発言までしたと言われています。
 
本書で語られている「戦争」もその多くが国際法的には「紛争」に該当するものであり、国際政治における力関係に大きく影響するような大規模戦争について述べているのではないということに注意しなければなりません。
 
クラウゼヴィッツの狂信者”ならぬ”ルトワックの狂信者”にならないように「ルトワックの戦略論」を正しく使えるようになりたいのものです。
 
そのためにも未訳の大著ビザンツ帝国大戦略の邦訳出版が待ち望まれると言えます。
 
おススメです!