書評『ビジネスで差がつく論理アタマのつくり方』 #平井基之 #ダイヤモンド社 #チャンネルくらら #論理アタマ
書評『ビジネスで差がつく論理アタマのつくり方』
資格取得、出世につながる、つなげる!子供の成績もアップする!働くお父さんのための論理アタマのつくり方
■東大に文理両方で合格した男
著者は平井基之さん。
現役で東大理科一類に合格し、卒業後に大手学習塾に勤め、退社後は私立高校で難関大学受験者専門クラスの統括責任者に。30歳を超えてから一念発起。1年で東大文科三類の合格を目指して受験勉強を開始し、見事合格。
現在は受験戦略家として、日本お笑い数学協会員として、そしてネットチャンネル「チャンネルくらら」の火曜日、木曜日のレギュラーMCとして多忙な日々を過ごされています。
そんな平井さんのデビュー作である本書は、毎日忙しく働くビジネスマン、働くお父さんたちにうってつけの一冊です。
■「あと1点が・・・」「オレの人生終わった」 学校だけでは終わらない!資格勉強、昇進試験という阿鼻叫喚の地獄絵図
「よっしゃ、ラッキー、合格! これでもう勉強する必要なくなった!」
大学受験が終わった直後に、こう思った人も多いのではないでしょうか。大学受験が終われば、もう勉強とは”無縁の世界”になると。
ところが現実は甘くないものです。社会人になってからも勉強は付いて回ります。特に資格試験、昇進試験という形で顕著となって現れます。
「実は資格試験、昇進試験というのは人生において高校受験、大学受験並みにシビアなものかもしれない。」
最近身の回りで起きた出来事を思い返す度にそう思わずにはいられません。
-「たった1点の差」が「一人前」と「人に非ず」の境目に-
私は今、不動産業界に勤めているのですが、不動産に関する資格と言えば、「宅地建物取引主任者」です。(近年、名称が「宅地建物取引士」に改称されましたが)
この「宅建取引士」、国家資格であり、不動産取引において資格保持者でしかできない業務があること、金融業界等、他業界でもニーズが高いことなどから、転職にも役に立つ、実務で活かせる資格として常に人気ランキングで上位にくる人気資格です。
合格率も例年15%~17%前後、つまり10人受験すれば確実に8人は落ちるという、弁護士資格や税理士などには及ばないにしろ、「わりと難易度が高い資格」として認知されています。
宅建取引士にしかできない業務があるということで、当然不動産業界では必須の資格となっており、年配の方だと「宅建取引士を持っていない者は人に非ず」とまでいう方もいらっしゃいます。
が、そこは合格率15~17%。日頃実務経験を積んでいるからと言って簡単に合格できるものではありません。実務経験の長いベテランなのに合格できない人もいます。
そういう意味でもとりわけ悲惨だったのが、今年2017年度の宅建取引士試験だったのではないでしょうか。
大手資格スクール各社の予想では、今年の合格ラインは50点満点中「33点~34点」というのが大方の予想でした。自己採点してみて34点だったという人も周りにはわりといて、「今年はいけたかも」と手ごたえを感じている人もおり、「大手スクールの予想で34点だって言ってるんだから大丈夫じゃない?合格出来て良かったねぇ」などと話したりもしていました。
・・・ところがいざ合格発表となってみると、なんと合格ラインは「35点」!
たった1点の差で、ある人は「一人前」と認められ、ある人はまた「人に非ず」状態が続くのです。
「合格出来て良かったね」と言った人には掛ける言葉すら見つかりませんでした・・・。
-「オレの人生終わった・・・」と嘆いた友人-
掛ける言葉が見つからないと言えば、私の友人の話です。
友人は、”お役所的な企業”に勤務しているのですが、友人曰く一定以上のポストに就くには「昇進試験」を受けなくてはならないのだそうです。
しかも、試験を受けることが出来る回数は明文化はされていないものの、実質的には「3回まで」が慣例なのだとか。
つまり、3回試験に失敗するともうそれ以上の出世は望めないのです。
どれだけ実務で業績に貢献していたとしても、試験に落ちたという理由で「良くて課長止まり。それ以上のポストに就くことはない」ということが確定しているのです。
「そんなバカな」と思われるかもしれませんが、別の親戚の話を聞いても、その親戚が勤める会社は会社が決めた資格の取得がマネージャーになるための必須条件なのだそうです。
どうやら、往々にして資格取得、昇進試験が出世のカギとなっている会社というのは意外に多いのかもしれません。
「出世できないなら、とっと他の会社に転職すればいいではないか」という声も聞こえてきそうですが、出世が望めなくなったからといって、30代に突入し、家族が増えれば、そうそう簡単に「転職」できないというのも厳然たる現実。
実際、40歳を境に転職後の年収減少が始まるのだそうです。
リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査2014」によると、20代、30代では転職後年収が増加する人が5~10%ほど多いのとは違い、40代以降は一転、年収減少組の割合が上回ってくるのだそうです。
3回目の試験が終わったあと、友人は「オレの人生終わった・・・」と嘆いていましたが、同じ境遇を実感しているお父さん方も多いのではないでしょうか。
■働くお父さんにこそ必要な論理アタマ
聞いているだけで悲しくなるようなエピソードばかりですが、いずれの場合も確実に言えるのは、「誰しも学校を卒業したからと言って、”勉強”から卒業したわけではない」ということではないでしょうか。
とはいえ、学生と社会人で大きく異なる点があります。それは勉強に対する「優先順位」です。
学生は「勉強が第一」なのが当たり前ですが、社会人はそうはいきません。
「仕事が第一」「家庭が第一」であって、自分の勉強は二の次、三の次なのです。そうなると“限られた時間”で“いかに効率よく勉強”し、資格取得、昇進という“ミッション成功”へと導くか。
ここが最も大事な要素になるのではないでしょうか。
この“限られた時間”で”効率よく勉強する“ための下地が「論理アタマ」なのです。
著者の平井さんは「量を増やすのは悪い作戦」「机に向かうだけが勉強ではない」と説きます。
むしろ「論理アタマ」になれば、そんなことをする必要はないのだそうです。
大いに結構なことではないですか!
もともと「問題を解いて解いて解きまくる」ような受験生のような勉強時間は取れませんし、机に向かう時間だってなおさらです。
ならば、量を増やさなくともしっかり身に付くコツが、机に向かわなくても自然と勉強できるコツがあるなら、それを活用しない手は無いといえるでしょう。
■親が学べば、子も学ぶ! 目指せ!論理マスタ―!
資格取得に、昇進試験にと、いかにお父さんのキャリアアップのために論理アタマが必要なのかを見てきましたが、親が論理アタマになるということは、子供にも少なからず影響を及ぼすようです。
本書によれば「両親のレベルアップは、子供のレベルアップ」であり、「両親が絶えずレベルアップしているご家庭のお子さんは、両親を尊敬し、言うことをよく聞く傾向が非常に強い」のだそうです。
この一文を読んだときに、ふと思い出したのが『下剋上受験』(桜井信一著 産経新聞出版)に登場するエピソードでした。
この『下剋上受験』、中卒の父親(著者の桜井さんご本人)と娘(佳織)が二人三脚で中学受験を目指すという、実話をベースにしたお話で、2017年に阿部サダヲ、深田恭子ら豪華キャスト陣によりドラマ化もされたことで、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
原作では次のようなエピソードが登場します。
「計算と漢字だけでもう2時間も経ってしまった。まだ苦痛を感じない。何時間も勉強すると考えただけで、それはもう修行のような辛さだと思っていたが、まったくそんなことは無い。結構楽しいものだ。ふたりでやっているからというよりも、こうしてひとつひとつ学ぶということは意外に心地よいものだと思う。(中略)ひょっとすると勉強って楽しいものかもしれない。」
一見、順調に滑りだしたかのように見えますが、すぐに壁にぶつかってしまいます。
何度練習問題を解いても一向にスピードが上がらないのです。
志望校の問題は1問1分のペースで解かなければ制限時間内に終わらないのは明らか。にもかかわらず解いても解いても30分以上かかってしまうのです。
娘には「がんがん解きまくろうぜ」と言いながらも桜井さんは疑問に思います。
「筆算が速い、暗算が速い。そういう単純なことだろうか。野球でいうと足が速い、投球が速い、そういうことなのだろうか。足が速くなるにはがんがん走るしかない。速い球を投げるにはがんがん投げるしかない。そういう単純な話じゃないはずだ。」
そして、「フォーム」の大切さに思い至ります。机の前に並んだテキストの中から「フォーム」を教えてくれるコーチとなるべき教材を見つけたその時、暗号が解けたような感覚になったそうです。
「確かにこのテキストには反復練習が大事だと書いてある。しかし、その前に「数」に何かを感じなければならないと教えてくれているのだ。・・・・・・すると、数字が喋っている。確かに意味を持っている。
165×32は筆算するなよとささやいているではないか。244÷4も筆算するなよと笑っているではないか。
・・・・・・私は、数に対する接し方をあまりにも知らなさ過ぎた。数を見た瞬間に分解したくなる感覚。バラバラにした状態を想像できる目。これが重要なのだ。
・・・・・・すべての人の顔が異なるように、すべての数も異なる表情を持っている。同じ国なら同じ顔をしているように、数にも同じような表情をしているものがある。こうして数を見つめていると、算数って、計算って、こういうことを知るために繰り返し練習するのかもしれないと気付き始めた。」
「133を見て19で割れると気付く子を育てる。91を見て13で割れると気付く子を育てる。その勘を養うために大量の計算問題をやらせるなら、多くの子は途中で投げ出すだろう。
しかし、20までの素数をすべて空で言えて、その素数の倍数を九九のように空でいえるようにすること、何の役に立つかもわからず暗唱するのではなく、どんなときに役に立ち、どれほど大きな武器になるのかを知った上で暗唱すること。
23も素数なのに、中学受験においては使う場面がないね、と楽しく得した気分で学ぶこと、これならずいぶん違ってくる。本来機械がやってくれる計算という分野を人間がやる意義、それを小学生でもうっすらと感じることができるのかもしれない。さらにその学習を親子で取り組むことができるなら、多くの子供は頑張ってみるのかもしれない。」
ここで描かれているエピソードも端的に言えば、「論理アタマがいかに重要なのかを説いている」という一言に尽きるのではないでしょうか。
そして、子供に「論理アタマ」を教えるにあたっても、教える親自身が「論理アタマ」でなくて、どうやって子供が「論理アタマ」になるというのでしょうか。
塾や家庭教師がいるとは言っても、皆が皆、平井さんのように「論理アタマ」を教えてくれるとは限りません。「フォーム」を教えず、ただひたすら「解いて解いて解きまくるだけ」の塾や家庭教師も多いのではないでしょうか。
お父さん自身のキャリアアップ、子供の成長のためにも、論理アタマになることが重要なのだと気付かされる一冊です。
小4の時には既に算数の勉強は諦めていたという、数学嫌いなら誰にも負ける気がしない、論理アタマ0(ゼロ)の私も、本書と併せて平井さんのブログ「東大に文理両方で合格した男が綴る、受験の戦略」やチャンネルくららの受験特番「チャンネルくららの夏期講習」「チャンネルくららの秋期講習」、日本お笑い数学協会が世に送り出す予定の、”くだらなすぎて笑える話から、ガチで試験に使える話まで詰まった数学本!”、『笑う数学』(2018年1月27日発売予定)で、ポケ〇ンマスタ―ならぬ論理マスタ―を目指したいと思います。
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