『学校では教えられない歴史講義 満洲事変』感想① 衆議院ならぬ醜戯院?!~正論が通らなくなる背景~

■「昭和6年9月18日~12月11日の専門家」による”本気の書”

『嘘だらけ~』シリーズの他、『大間違いの織田信長』『『誰も教えてくれない 真実の世界史講義』『日本一やさしい天皇の講座』『右も左も誤解だらけの立憲主義』『自民党の正体』『検証 検察庁近現代史』等々多数のベストセラーを世に送り出している倉山満先生の”本気の一冊”。

 

多数の著作をもつ倉山先生ですが、ご専門は憲政の常道であり、特に満洲事変期に憲政の常道がどのようにして崩れていったのか」を研究対象とされており、さらに突き詰めていうならば「昭和6年9月18日~同年12月11日の専門家」ということになるのだそうです。

 

つまり、本書は倉山先生が専門とされている満洲事変期そのものを題材にした「専門そのものの前提」を書いた一冊であり、「普通の人が満洲事変を理解するには、このくらい知っておいてほしい」という知識を集めて体系化したものなのだそうです。

 

本書を読めば、満洲事変期に坂道を転げ落ちるように日本の政治が劣化していく様が、正論が通らなくなる時代に突入する様が、手に取るようにわかるのですが、そもそも政治の劣化させたのは、正論が通らない空気を作ったのは、一体誰なのでしょうか?

 

衆議院ならぬ醜戯院?!~正論が通らなくなる背景~

本書でも「当時の政党政治はスキャンダル、足の引っ張り合いに明け暮れていた」との記されていますが、実際のところはどうだったのでしょうか。

 

美濃部達吉博士の『議会政治の検討』には昭和6年当時の政党政治が民衆からどのようにみられていたのかが詳しく描かれています。

 

美濃部博士によると、

  • 投票の買収が至るところで行われているのは公然の秘密であり、買収によらずに当選することなど殆ど望みが無い。
  • 選挙費用は法律で定められていても、空文化しており、ほとんどの議員は法定制限を超える選挙費用を投じて、やっと当選できる。
  • 政府与党の権力濫用も目に余る始末で、内閣の交代ごとに地方長官や警察署長の更迭が行われ、それが主に選挙干渉のためであることは疑いないと人々からみられていた。

という有様だったようです。

 

さらに当時の議会での議論の様子もさらに悲惨だったようです。少しでも国利民間に貢献するならばまだしも、

  • 多くは国民生活の実際には何の関係もない形式的名目的な事柄、条約の前文に「人民の名において」とあるのがけしからんだとか、そういうくだらないことがさも国家の重大事件であるかのように、繰り返し論議され、
  • 挙句の果てには、暴力を以って議事進行を阻止し、ついには議院内で殴打乱闘、流血事件まで起こり、
  • 新聞に「衆議院ではなく醜戯院だ」、「二大政党は二大暴力団である」、「言論の府は総じて暴力乱闘の巷となった」、「議会が自ら議会を否認し墓穴を掘った」と書き立てられる始末。

片や、東北では餓死者が続出、少女が身売りする中、元老、宮中高官、財閥、政治家、高級官僚という「エスタブリッシュメント」と呼ぶべき特権階級は広大な面積の土地を私有し優雅な生活をしている上、政治はこんなスキャンダルと腐敗に明け暮れる日々。

 

これでは国民が政治不信、政党不信に陥るのも当然だったのかもしれません・・・。(続く)