書評『消された政治家・菅原道真』 あなたの知らない“政治家”菅原道真の治績 ~大蔵官僚、大蔵事務次官にして蔵相だった道真~

書評『消された政治家・菅原道真』平田耿二著 文春新書

あなたの知らない“政治家”菅原道真の治績

~大蔵官僚、大蔵事務次官にして蔵相だった道真~

 

「学問の神様」、菅原道真

宇多天皇の厚い信任のもと右大臣として、栄達を極めながらも、藤原時平の政略により太宰府に流され、非業の死を遂げた文人

現代に伝わる道真の業績といえば遣唐使の廃止」ですが、実は道真は、学者のみならず、大蔵官僚というキャリア官僚としての側面も持ち併せ、栄達したのちは蔵相として、あるいは官僚機構のトップを担う大蔵省事務次官国税庁長官として大規模な税制改革を企図していたのだそうです。

 

当時の税制は成人男子に対して一定の税を課す人頭税を中心としたものでしたが、虚偽申告が横行し、その実勢把握は困難を極め、著者の計算でいけば、成人男子7万人のうち実に3万人~5万人が脱税していた計算になるのだそう。

 

当然、政府の財政はひっ迫し、治安は乱れ、民衆は困窮します。

国家体制の土台が崩れていくことに危機感を覚えた道真が断行しようとしたのが人頭税から土地課税への転換”という大規模な税制改革でした。 

その過程で行われた大規模な土地の実勢調査は「平安の太閤検地ともいえるもので、その様相は現在の不動産登記簿謄本や公図、国勢調査の原型を思わせます。 

本書はあくまでも「内政」「税制改革」における菅原道真の業績に主眼を置いた内容になっており、遣唐使の廃止も税制改革、国政改革を優先したからだ」という視点で描かれているため、当時の国際情勢からみた視点や、道真は渤海客使という外交官としての側面もあったという点についての記述が少ないのがやや残念ですが、菅原道真という政治家”、”菅原道真という官僚“の政治における治績を知る上では、とても興味深い一冊と言えます。 

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